アルバム『feedback』楽曲解説

 
Chageが3年ぶりに届けてくれるニュー・アルバムのタイトルは『feedback』。すでに日本語になっていると言っていいその言葉は、音楽の世界ではエレキギターとアンプの相互作用によって生まれる、ある種の“発明”に付けられた名前だ。
エレキギターを大音量で鳴らすと、アンプから出てきた音がエレキギターの弦をさらに震わせ、その振動をエレキギターのピックアップが拾って、その音がまたアンプから出て、また弦を震わせ…、という現象を繰り返すことになる。それは本来エレキギターをデカ過ぎる音で鳴らしたことによって生じたノイズだったはずだが、ザ・フーなのかザ・ビートルズなのか、1960年代に登場した天才たちがそのアクシデントをロック的な表現手法の一つに高めてしまった。そして、九州の片隅で60年代UKロックの洗礼を思い切り浴びた少年が、60歳の節目を華やかに祝ってもらった次の一歩を、空間を切り裂くようなそのフィードバックの音から始めることにした。『feedback』はそういうアルバムだ。
が、このアルバムのfeedback現象は、そのオープニングの音だけではない。
例えば盟友・松井五郎が作詞を担当したオープニング・ナンバー「Kitsch Kiss Yeah Yeah」。Chageが何語とも言えない言葉で歌った仮歌を聴いた松井は、その響きを忠実に再現しながら、しかも大人のラブアフェアを描いた粋な歌詞に仕立て上げた。一方、「Love Balance」の作詞を手がけた前野健太は、Chageが仮歌で発していた♪Love Balance♪というひと言に反応し、シュールで官能的なマエケン・ワールドを展開してみせている。今春、開催されたファンクラブ・ミーティングでいち早く披露された「Mimosa」は、今やChageのライブに欠かすことのできない存在となったキーボード奏者・力石理江が、最近のChageのジャズへの傾倒も承知した上で、よりオープンでライブ映えするディキシーランド・ジャズ・テイストのアレンジを施し、アルバムの構成にアクセントを効かせている。つまり、Chage発信の、ヒントとも言えないような音のカケラに、彼の個性を熟知するクリエイターたちが反応して、そのカケラの魅力を鮮やかに増幅させ、さらにその作品をChageが見事なパフォーマンスで2019年型Chageのホット・チューンに昇華してみせる、といった具合だ。
さらには、Chageの少年/青年時代を彩ったロック・ヒッツのカバーは、その楽曲の魅力とChageの音楽性をよく心得た西川進のアレンジを得て、それらの曲たちがシーンを賑わせた当時の昭和マインドがChageの伸びやかな歌声を通して、この令和の空気と共振する。
「制作の途中で平成から令和に変わったということが僕の中では結構大きくて、もちろん元号がそのタイミングで変わることは前から決まっていたことではあるんですが、それにしても実際になってみるとね。僕らが子供の頃は、明治/大正/昭和と言ってたわけですけど、それが昭和/平成/令和となったわけで、そうすると急にノスタルジックな気持ちが出てきたんです。昭和が歴史になっちゃったというか。でも、僕らはその時代を一生懸命生き抜いてきたわけですよね。だから、今回の作品は、自分が今作りたいものを作ると同時に、自分がまだ音楽のことをまだよくわかっていない子供の頃にテレビから流れてきていた昭和のサウンド、それがあるからこそ今、新曲も作れるし、それを令和の時代に伝えていけると思ったんです」
ちなみに、このアルバムの仮タイトルは“ROOTS”だったそうだ。
「原点の原点というか。そこを掘ってみようという気持ちはブレずにずっとありましたね」
人生の節目を過ぎ、新しい時代に発表する新しいアルバムをChageは自らの原点を掘り起こすことから始めて、だからこそ思いを新たにし、次へと向かう意欲が高まっている。
「生まれてからの30年間が昭和で、平成がその後30年あって、それで令和なんです。だから、令和も30年やるぞっていう。“30・30・30”っていう一つの目標ができたんですよ。そういうのが僕は大好きですから」
もっとも、まずライブの現場から踏み出してくのは、これまでと変わらない。8月末から始まるツアーで、Chageはオーディエンスと熱い音楽的抱擁を交わす。
「この曲たちの歌詞と同じくらいシンプルでストレートなライブをお届けします。音楽は楽しい!っていう、それこそ原点の原点をみんなで一緒に確認できたらいいかなと思っています」

兼田達矢


楽曲解説

1.「Kitsch Kiss Yeah Yeah」

「五郎との最近作というと、『たった一度の人生ならば』とか『equal』とか、歌詞の重み、深みを前面に押し出した曲が続いていたんですが、「令和最初だよ」という話をしたら、五郎もわかってて「ちょっとはっちゃけていい?」って。「俺も同じことを考えていた」という話をして、それでああいう歌詞になりました。五郎とは、元をたどれば『ふたりの愛ランド』だし、その前に『アルマジロ・ヴギ』とか、文字で遊ぶように(笑)曲を作ってきた仲ですから」

2.「たどりついたらいつも雨ふり〜あの時君は若かった」

「たどりついたらいつも雨ふり」は、1972年7月に発売されたモップスの『モップスと16人の仲間』というアルバムのために吉田拓郎が提供した曲。「あの時君は若かった」はザ・スパイダースが1968年3月に発表した14th シングル。
「拓郎さんの世界観、歌わせてもらってあらためてすごいなと思いました。まあ、無駄がないというか。で、GSというと、僕のなかではザ・スパイダースなんです。GSの中ではちょっと異色な感じがして、なんとも言えないバラエティー感で、でもサウンドはカッコいいっていう」

3.「Mimosa」

「この曲は、去年のお祝い返しそのものという曲です。そもそもファンクラブ・ミーティングで先に聴いてもらったんですけど、それをこのアルバムのためにレコーディングすることになった時に、アレンジは変えて、♪Hey Chappy ♪という歌詞も変えないといけないかなと思ったんです。でも、もう一人のChageが「いいじゃん、これで」って。平成時代の僕だったら、変えたかもしれないけど、令和になって、僕の意識の中に起こった変化の一つでしょうね。実際、名前を歌ってる曲はいっぱいあるでしょ。ラブソングって、そもそも1対1の歌を、それ以外の人も自分に置き換えて聴くものですから、このままでいいなって」

※註:Chappyとは、Chageのファンクラブ会員の愛称

4.「Love Balance」

「これは、曲を作ってる時から“面白くなる!”という予感があったんです。半音ずつ展開していくメロディは、我ながら斬新だなと思って。西川くんも「ここまで押し通すのは珍しいですね」と言いながら、喜んでアレンジしてくれて、メロディもアレンジもすごく納得のいくものができて、“さて歌詞は?”と考えた時に、この曲は新しい人とやってみたいと思ったんです。で、いろんな人を考えてみた時に、マエケンの名前が浮かんだんです。2015年の“Chage fes”にも出てもらいましたが、“この世界観は何!?”と思いましたからね」

5.「好きさ 好きさ 好きさ〜悲しき願い」

「好きさ 好きさ 好きさ」は、ザ・カーナビーツのデビュー曲。1967年6月発表。オリジナルはゾンビーズ「I LOVE YOU」。「悲しき願い」は1964年7月発表のニーナ・シモンがオリジナルだが、アニマルズのバージョンが世界的に大ヒット。今回は日本で最もヒットした尾藤イサオによるカバー・バージョンが基になっている。
「詞も曲もストレートなんですよね。先人たちはすごいですね。すごいストレートでど真ん中を狙ってくるんですよ。がむしゃらに。だから、小学生の僕にも響いたんでしょうね」

6.「二人だけ」

キャロルが1973年5月に発表したシングル「0時5分の最終列車」のカップリング曲。アルバム『ファンキー・モンキー・ベイビー』(1973年7月発表)収録。
「リスナーからからすると、Chageがキャロル、というのはちょっと意外だと思います。時代もちょっと後になるんですが、Chageの青春の、本当のBGMでしたから、どうしても今回入れたかったんです」