特別寄稿『アルティメイト~グレイテスト・ヒッツ』
『アルティメイト~グレイテスト・ヒッツ』に寄せて
ブライアン・アダムスという現役ロック・アーティストの在り方を誇示するアルティメイトなベスト。
text/安川達也
ブライアン・アダムスの最新ベスト・アルバム『アルティメイト~グレイテスト・ヒッツ』が配信、CD発売された。世界発表されたフィジカルのベスト盤としては、『ソー・ファー・ソー・グッド/ブライアン・アダムス・ベスト』(’93年)、『ベスト・オブ・ミー/ブライアン・アダムス・ベスト2』(‘99年)、『アンソロジー』(’05年)に次ぐ4枚目の企画となる。これまでも節目となるタイミングで発表してきたベスト盤だが、今回の『アルティメイト~グレイテスト・ヒッツ』は、まさに絶好の機会、言い方を変えれば出るべくして出たアルバムと言える。キーワードはGET UP!
前ベスト『アンソロジー』(’05年)からのインターバルは12年だ。この間のオリジナル・アルバムは、希代のメロディ・メイカーとしての非凡さをサラリと誇示した円熟のロック・アルバム『11』(’08年)。そして全9曲30分の少数精鋭なロック・アルバム『ゲット・アップ』(’15年)。とりわけ、英国が誇るポップ・マエストロ、ジェフ・リンをプロデュースに迎えた後者『ゲット・アップ』の制作手応えは、「おそらくこれまで僕が作った作品で最もロックンロールしたアルバム!」とブライアン本人も噛みしめるほど通快な内容だった。
ブライアン・アダムスと盟友ジム・ヴァランス共作による80年代を彷彿させるキャッチーな楽曲。デモをメールで受け取ったジェフ・リンがさらに余分なサウンドを切り落とし”魔法“をかけてブライアンの手元に返す。
「確かに誰もが簡単に音楽を創れる便利で良い時代になったと思う。でも、リスナーから愛されるメロディだけは昔も今も機械が産み出すことは出来ないんだよ。僕の最近の作品と『レックレス』の曲に違和感がないと指摘されることが多いのはもちろんアプローチは違うけれどメロディを大切にしているからだと思うんだ」(ブライアン)。
ジェフ・リンは同業者としても、非凡なメロディ・メイカーとしても、そしてロック/ポップスを愛する者としてブライアン・アダムスというアーティストの本質を送られてきたデモ音源から見抜いた。「(この作業が)素晴らしくて、もう興奮しっぱなしだったよ!」(ブライアン)。綿密に重なるギターとヴォーカル。 奥行きのあるジェフ版ウォール・オブ・サウンド。独特のエフェクト処理を施した耳に残る乾いたドラム。”5人目のビートルズ“の異名持つジェフのリヴァプール直径のサウンドは、ビートルズをルーツとするブライアンにとっても、かつて”18 TIL I DIE(死ぬまで18歳)“と永遠のロックンローラー宣言したアーティストとしても、申し分のないほどの快心サウンドだったのだ。
「僕の多くのファンたちがずっと聴きたかったはずのサウンドに仕上がっていると思うんだ。これを25年前に作っていたら良かったと思うほど(笑)。新作を演奏するツアーが今からとても楽しみだ。楽曲そのものが全てを物語っていると思うし、最高にライヴ映えするだろうから、非常にエキサイティングなものになりそうだ……」(ブライアン)。そしてその予感は的中した。
2017年1月23日・大阪市中央体育館、24日・日本武道館。僕らは“ブライアン史上No.1“と言っても大袈裟ではないブライアン・アダムスによる極上のロック・ショーを体感した。ステージ中央のブライアン・アダム(Vo/G)を囲むのは、盟友キース・スコット(G)、ミッキー・カリー(Dr)、そして比較的若いゲイリー・ブライト(Key)、リチャード・ジョン(B)。新旧メンバーが同じ黒スーツを着こなしタイトな演奏を繰り広げていく。最新作『ゲット・アップ』から「ゴー・ダウン・ロッキン」「ユー・ビロング・トゥ・ミー」、初期代名詞『レックレス』(’84年)から「ラン・トゥ・ユー」「ヘヴン」「イッツ・オンリー・ラヴ」を交えながらの演奏。『ゲット・アップ』ツアーのハイライトはじつはこの本編前半の新旧ナンバーの応酬だった。ブライアンの中音域ハスキーな歌声を囲む完璧なまでの熱演、ハイトーンになった瞬間にクリアになる独特な歌声を最大限に引き出す演奏。57歳という年齢とは思えない、という常套句の次元を遥かに超えた歌唱。そして会場を埋め尽くす観客の多くの想い出が込められた『レックレス』楽曲は自然と合唱が巻き起こる。名曲の言葉とメロディが、衰えしらずで味わい深さも加味された歌声でなぞられていく。白いTシャツ&ジーンズの若きブライアンと、ステージ上の黒スーツのブライアンがスクリーンの中で時おり重なる。大歓声に会場が包まれていく。
余分な飾りを一切削ぎ落としたアルバム『ゲット・アップ』の世界観を体現するかのように本ツアー全体のアレンジが秀逸。全15曲75分の大作『ウェイキング・アップ・ザ・ネイバーズ』(’91年)以降の楽曲も必要以上の間奏とアウトロをカットしたことでライヴ全体にスピード感が増し、約2時間半の時間のなかで35年以上のキャリアが総括できる様相だ。日本武道館公演に関しては24回目を数え洋楽アーティスト歴代2位の公演記録となったが、散見する「ブライアンの武道館ライヴは今回が1番!」の声には多くの体感者が納得したはずだ。’85年10月の初武道館公演をも上まわった観のある鳴り止まない拍手喝采が物語る。
’80年のデビューから37年。全世界アルバム売り上げ累積は6500万枚を突破。グラミー賞、アカデミー賞を受賞、母国カナダの最高栄誉ジュノー賞は18回受賞しすでに“殿堂入り”。さらにカナダ勲章を授章、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームには星が刻まれ、ロンドン・ウェンブリー・スクエア・オブ・ フェームには手形が押されている……。あまりある名声を手にしたアーティストなったブライアン・アダムスだが、今でも1年のうち1/3にあたる120日間 はどこかの国のステージで「シックス・ストリングス」を奏でるロッカーで在り続けている。
最新ベスト・アルバム『アルティメイト~グレイテスト・ヒッツ』の収録曲は、曲順も含め『ゲット・アップ』ツアーのセットリストと重なる。ライヴでの感動体験という言葉に裏打ちされた過去・現在・未来を繋ぐ最強の21曲。ブライアン・アダムスという現役ロック・アーティストの在り方を誇示するアルバムとしては今これ以上のものはない。そして『アルティメイト』ツアーの来日を心から望みたい。
2017年12月6日
●文中のブライアン・アダムスの発言は筆者寄稿によるブライアン・アダムス『ゲット・アップ』ライナーノーツからの引用です。