BIOGRAPHY

(公式バイオ- written by Elif Batumanの翻訳)
あるとき、boygenius (ボーイジーニアス)が北カリフォルニアでドライブをしていたとき、フィービーはジュリアンとルーシーにとても重要な曲を聴くように頼み、再生ボタンを押すと、フリーウェイに乗って間違った方向へ向かってしまった。その曲はIron & Wine(アイアン・アンド・ワイン)の 「Trapeze Swinger」(トラピーズ・スウィンガー)で、死んだ人が生きている人に、自分がどう記憶されたいかを語るという内容のものであった。10分もあるこの曲を中断することはできず、3人の移動時間を1時間延長させた。フィービーは馬鹿にされたような気がした。ルーシーはその後、「Leonard Cohen」 (レナード・コーエン)という曲に変えた。

1時間の移動時間を遠回りではなく、旅の一部と捉えたらどうなるか。目的地と反対方向にドライブしながら、「Trapeze Swinger」(トラピーズ・スウィンガー)を聴いたその時間は、旅の中で最も価値のある時間になるのか。時間は、「価値のある時間」と「価値のない時間」が交互にやってくるのとは違うものに変化するのか。

『the record』(ザ・レコード)の制作 は2020年6月にスタートした。『Punisher』(パニッシャー)が発売された1週間後、フィービーはルーシーとジュリアンに「Emily I’m Sorry」(エミリー・アイム・そーりー)のデモを送り、EP『boygenius』(ボーイジーニアス)を構想し、曲を書き、録音し、リリースし、ツアーを行った2018年以来初めて、もう一度バンドとして活動できないか、と尋ねた。誰も最初にお願いして皆との時間を要求することは望んでいなかった。しかし今、ジュリアンは “dare I say it? “(訳=あえて言わせてもらうと)というGoogle Driveのフォルダを作り、みんながそこに曲の候補を追加している。

このアルバムは喜びを取り戻すこと、つまり、最も重要なことではないことが判明した無駄な回り道について書かれたものである。ジュリアンは、自分がバンドに求めているものがもっとかっこいいリフであることに気づいた後、「$20」を書いた。自分の音楽でありながら、すぐにアイデンティティが崩壊してしまうようなことを個人のアーティストとして言うのは難しい。表面的な肉親のように思われたくなく、そうなりたくもない。しかし、弾き語りを習い始めた頃、友達と“意味もなく”音楽を作っていた時に、本当にめまいがしたのはかっこいいリフを聞いた時であった。なぜ理由もないことが、理由よりも切実に感じられるのか。

このアルバムは、時間を作ること、そして時間をかけてそれを記録する新しい方法を見つけることについて書かれている。オープニング・トラックである「Without You Without Them」(ウィズアウト・ユー・ウィズアウト・ゼム)は、EPが終わったところ、つまり 「Ketchum, ID」(ケッチャム、アイダホ)と古い時代のCarter Family(カーター・ファミリー)の雰囲気を持つところから始まり、何かが去ったところから、前に来た人たち、そして今あなたが愛している人を作った人たちについて歌ったものである。ルーシーは皿洗いをしながら、この曲を何年も歌い続けていた。

また、作品で繰り返されるテーマの中に、私たちがお互いについて見ているものは、時間とともに移り変わる巨大な氷河のごく一部であるというものがある。歴史的なスケールで見れば、あなたは何百年もの間、あなたの知らない人々によって形作られてきたということです。しかし、人間というスケールで見ると、あなたが生きている間に、あなたが誰であるかは、常に注目する人々によって明らかにされる。歴史はその神秘性を失ってしまう。時間をかけて開示されるからこそ、真実は常に変化する。それが「True Blue」(トゥルー・ブルー)のテーマである。それは、惑星が形成されるように集まり、そして散っていく。

昨年4月にboygeniusが最初にしたことは、一緒に音楽を作るために会うことであった。そこで『the record』(ザ・レコード)が変わった。最初の4曲は個々に書き、残りは会話だ。例えば「Satanist」は、宗教的に育てられたジュリアンが、ドキュメンタリー映画『Hail Satan?』を観た後に書いたものであり、彼女は自分が悪魔崇拝者になれると思ったのだ。

ルーシーが初めて「We’re In Love」(ウィーアー・イン・ラヴ)をアカペラでフィービーに歌ったのは、2022年の元旦、フィービーのベッドでだった。彼らは互いの顔いを抱き合っており、完全に合法なドラッグの作用だ。ルーシーは涙を流し、まばたきもしなかった。その後、スタジオでジュリアンは、この曲は長すぎると言った。今思えば、ジュリアンはまだ未熟であった。ラブソングの真実が身にしみたとき、彼女は6時間もどこかに行ってしまった。

このアルバムは2022年1月、マリブのシャングリラで、毎日10時間制作し、1カ月間レコーディングされた。誰もそのスケジュールに疑問を持たなかった。ある時、ジュリアンは 「Emily I’m Sorry」にギタートラックがないことについてパニックを起こしていた。ルーシーは、フィービーがその曲を1000回書き直すのは間違いないと指摘して彼女を慰めた。フィービーは 「Revolution 0」(レヴォリューション 0)を再レコーディングし、最後の最後で歌詞を変更した。

『the record』が流れ、あなたはフリーウェイに合流している。グレン・キャンベルのギターがビートルズの曲を奏でながら、間違った出口が左側に出てくる。すぐに海に出るが、年が徐々に過ぎていく。そしてトラックは変わり、実は期限切れではないUターンの時がやってきて、スパイラルがモットーになり、計画の亀裂が光になった。どうしてこの曲はこんなに長い
のだろうか。どうしてこんなに時間がかかるのだろうか。その余裕はあるのだろうか。そうこうしているうちに、時間はどんどん過ぎていき、犠牲にしなければならないのは、犠牲という考えだけになってしまうのである。そして2023年が到来し、『the record』がリリースされる。