アンドレア・ボチェッリによるアルバム解説

2018.06.15 TOPICS

アルバム『Sì~君に捧げる愛の歌(仮)』解説

 
このアルバムは、私の感性や価値観を反映したものであり、まさに「私そのもの」と言うことができるかもしれません。

未発表のポップソングを集めた、じつに14年ぶりとなるオリジナル作品集。なかには「コン・テ・パルティロ」と同じコンビによって書かれた曲もフィーチャーされています。その曲が、フランチェスコ・サルトーリと、2012年に悲劇的な死を迎えたルーチョ・クアラントットのコンビによる最後の仕事になりました。

私は、歌がポジティヴなメッセージを伝えることは、とても大切なことだと信じています。楽しげな歌も、もの思いにふけるような歌もいろいろありますが、歌はいつでも私たちの人生にとって、前向きな気持ちを与えてくれるものでなくてはなりません。

我々は、アーティストが社会において果たすことができる役割を忘れてはならないと思います。芸術と文化は、世界の進歩と平和に意義ある貢献をする力を持っているのですから。

このアルバムの根底に流れるテーマは、永遠に続く旅をする人類と、その存在の原動力となる愛です。信頼や勇気の中にある愛、恋人たちの愛、記憶の中に生きる愛、人生の旅における愛……。

人生において成熟のときを迎えている今の私が抱く「愛」についての概念は、20代や30代のときに抱いていた概念よりも広いものです。このアルバムは、そうしてだんだんと広がっていった視野を反映したものであると思っています。そう、官能的な愛があるのと同時に、人生への愛、美への愛、この世界の「同乗者」としての我々すべてを結びつける愛、そしてこの世界を創造した神への愛も、間違いなく「愛」なのです。

信頼は私の人生を支える要素であり、日々の生活における選択や、人と交流することで築き上げる関係性に大きく影響しています。このアルバムに収録された未発表の曲たちは、こうした私の信念を伝えてくれるメッセージなのだと思います。

聖アウグスティヌスは「歌うことは二度祈ること」と言いました。このアルバムの音楽が、リスナーの皆さんにエンタテインメントや心地よい時間を提供するだけでなく、ともに祈る機会を作るものであってくれたらと願っています。よい音楽は、美や友情について私たちに教えてくれます。そして心と意識をより高い次元へと拓いてくれるのです。

このアルバムには、バッハからマスネに至るまで、クラシック作品からテーマを引用した曲が収録されていますが、それは私にとって大切なコンセプトを伝えるものです。つまり、世の中にはジャンルに関係なく、美しい音楽とそうでない音楽しか存在しないということ。私たちは、その考えのもとに音楽を作っています。何世紀も前に作られた傑作をポップソングの中に埋め込むことで、その魅力を呼び起こし、敬意を表す。そうすることで、時代やリズム、オーケストレーションの違いを乗り越えて、このような作品が持つ永遠の美を証明することができるのです。

アルバムに収録された歌は、いずれも「オーダーメイド」と言うことができるでしょう。音域や音楽性が完全に私の声に合ったものであり、それが私の歌唱に明確な特徴をもたらしています。

制作する上では、インストゥルメンタルな部分に大きな注意を払いました。巨大なオーケストラ、豪華でよくアレンジされたオーケストレーション、そして協奏的な曲でのソロ演奏……さまざまな楽器が、歌とともに展開します。