Biography
つい最近まで、ポップ・ミュージックに違和感を覚えた人は多いはず。デスティニーズ・チャイルドの「Say My Name」、アリーヤの「Try Again」、そしてツイートの「Oops (Oh My)」など、ビジョンを持ったプロデューサーとカリスマ性のあるボーカリストがコラボレーションを行い、革新的で耳に残るトラックが次から次へとリリースされた。それは非常にエキサイティングなことだったと誰もがきっと思っているはず。アルーナジョージも同じように感じている。トップ40の曲がかつてないほど一様である現在、彼らはその状況を揺り動かそうと考えている。「私たちはいつでも例外を探してしまうみたい。みんなが退屈を感じていて、なにか新しい他のものを求めていることを願っているの」と、アルーナは話す。
アルーナジョージは、アルーナ・フランシスとジョージ・リードで結成された2人のユニット。“アルーナ”はタンザニアのバンツー語で“ここへおいで”、ポルトガル語で“生徒”、そしてマヤ語で“母なる大地”を意味する。アルーナがメロディーと歌詞を書いて歌い、ジョージがそれを神秘的かつ魅惑的なサウンドへとアレンジしていく。2009年に出会った2人は、ロンドンで暮らす。これまで非常に魅力的でフレッシュなシングルを2枚発表してきた:「You Know You Like It」と「Your Drums, Your Love」。彼らはまだまだスタートを切ったばかりだ。
2013年のアルーナジョージは、すでにファンたちの期待に応えている。Brit AwardsのCritics’ Choice Awardで最終候補3組の内の1組に選ばれ、影響力の大きいBBCのSound of 2013にも多くのアーティストと並んで投票されている。初めから彼らを支持してきたPitchforkも11月に行われるパリでのフェスティバルに彼らを招いた。ファッション界での活躍も期待されており、ロンドンで行われたFashion Weekにてモスキーノからパフォーマンスの依頼を受けたり、アルーナはNext Models(*世界的なモデル事務所)と契約を結んでいる。それは彼女の独特なスターとしての素質を物語っている。
アルーナはウェールズで生まれ、ティーンの頃にセントオルバンズに落ち着くまでは、イギリスとアメリカの間を行き来していた。セントオルバンズは決して音楽が盛んな地域ではなく、アルーナは一緒に音楽を作る相手を探そうと荷物をまとめロンドンへ向かった。そしてロンドン北西に位置するあるアーティストのアパートに居座ることになった。下の階には殺人前科者が何人も暮らしていたそうだ。PJハーヴェイ、ココロージー、フィーヴァー・レイなど印象的なボーカリストのファンであるアルーナは言う。「自分を変えようと努力するのではなく、自分の持っている声でなにができるのかをみつけようとしていた。」
2006年に奇抜なエレクトロ・ポップ・ユニット、マイ・トイズ・ライク・ミーに加わったアルーナは歌うことを楽しんでいたが、リリックに不満を抱いていた。その経験から、感情的な真実を露にする曲作りに集中することを学んだ。「意味がまったく理解できない歌を歌うのは私にとってはあり得ないこと。サミー・カーンとか、歌詞で言葉遊びをする昔の作曲家や作詞家のことについて読んだの。それは私にとって転機となったわ。」
2009年にジョージは、マイ・トイズ・ライク・ミーのシングル「Sweetheart」のリミックスを手掛けることを希望し、バンドとの打ち合わせで初めてアルーナと会うことになった。当時ジョージはサリー州キングストンで暮らしており、“マスポップ”バンド、カラーのギタリストをしていた。「目立ちたいというくだらない理由だけで、変な拍子で演奏する少年の集まりだった」と、彼は自虐的に話す。フライング・ロータスなど、Warp Recordsのアーティストから影響を受けてきたジョージは、プロデューサーになることを熱望し、ラップトップ・ソフトウェアとループ・ペダルを使いながらエレクトロニック・ミュージックを制作する腕を磨き始めた。
音楽的背景はそれぞれ違うが、アルーナとジョージは互いに望んでいるものが同じであることに気付いた。主流から離れたインストルメンタル・ミュージックのファンである2人は、なぜその素晴らしいビートをポップソングにしようと誰も思い付かなかったのかが理解できなかった。そして自分たちでやってみることにした。「私たちらしいポップをみつけることができたの」と、アルーナは言う。
共作した初めての曲は、グリッチ調の薄明るい「Double Sixes」で、彼らのウェブサイトから無料で配布された。初期の頃に制作された「Disobey」は、2010年に放送されたアメリカのテレビ番組『Skins』のラブシーンで使用された。ドアの上にタオルをかぶせただけ、という手作りのボーカルブースの中で“セクシーなリリック”をジョージのベッドルームで歌ったアルーナはその状況を、気まずかったと話す。
2011年の夏には、あまり知られていないUKレーベルSuperからシングル「You Know You Like It」がリリースされ、アルーナの集団が踊るという低予算だが印象的なPVが制作された。「みんなが手を貸してくれたのよ」と、アルーナは言う。「誰もギャラをもらっていないの。あれからみんなにあのビデオのリメイクを作れって言われるのよ!」そして様々な音楽出版社やレーベルから連絡があり、その中にはブルックリンを拠点とするTri Angle Recordsからのオファーもあり、「Just a Touch」を一緒に収録したEPがリリースされた。2012年1月にはIslandと契約を結び、お陰で西ロンドンにある小さなスタジオで作業を行うことができるようになり、ジョージの隣人たちを悩ませることはなくなった。
1年の殆どを本腰を入れながらスタジオで過ごし、2013年の前半はデビュー・アルバムの制作に取り掛かっていたため、幾つもの魅力的なオファーを辞退してきた。しかしその中でも、アルーナはラスティーの「After Light」にボーカリストとして参加し(もちろん、Warpだから断るわけがない)、ジョージはフローレンス・アンド・ザ・マシーン(「Spectrum」)、フレンズ(「I’m His Girl」)、そしてラナ・デル・レイ(「Born to Die」)のリミックスを手掛けた。
アルーナジョージの曲は、アルーナのクールで威厳のある、そしてはっきりとしたブリティッシュ・ボーカルと、ジョージのごちゃごちゃに調合された歪んだサンプルと痙攣のようなビート、そして太いもわっとしたベースという、息の合う2人の相性にかかっている。彼らの代表作「You Know You Like It」がそうであるように。ハーレスデンのバス停で待っているときに、その単調なコーラス部分をアルーナがアドリブで作り、ジョージに電話越しで歌った。バースは、彼女が数年前に大学で“反抗的でいること”について書いたもの。“私はバカじゃない。そうよ、みんなの真似なんてしないわ”と、彼女は歌っている。ジョージはそれを不安定で気まぐれなリズムに合わせ、ぼんやりとした雰囲気を作り出している。そのコントラストこそが彼らのサウンドなのだ。
アルバムは、アルーナジョージのサウンドの幅広さと流動性を証明している:気取った嘲るような「Attracting Flies」(“あなたの誘いはニセモノ/まるでダフ屋みたいね”)、センスの良い80年代ソウル・グルーヴの「Bad Idea」、夢のような「Body Music」、ゆっくりとした水中ジャムソング「Diver」、そして楽しい壮大なラヴソング「Superstar」。そのエキゾチックで想像力に飛んだポップは、BBC Radio 1のプレイリストに入ることは間違いないだろうし、ブログ上でも高く評価されるだろう。
アルバム制作が進む中、Islandに与えてもらっている自由をアルーナジョージは楽しんでいると語る。「私たちに任せてくれるの。素晴らしいものを作ってくれたらそれでいい、っていう感じでね」と、アルーナは言う。素晴らしい作品が仕上がることは間違いない。これでブリティッシュ・ポップはかなりおもしろくなるだろう。