AK-69『THE ANTHEM』リリース直前!!! オフィシャル・ライナー・ノーツを3回にわたってお届けいたします。 第2回はライター高木”JET”晋一郎さんによるライナー・ノートです。

2019.02.24 TOPICS

原義である「聖歌」という意味を超えて、現在では集団を統べたり、シンボライズする音楽、そしてフロアを支配する音楽という意味を持つ「アンセム」という言葉。AK-69のニュー・アルバムは、その言葉を冠した「THE ANTHEM」というタイトルが付けられた。

2017年10月18日に行われた武道館公演「DAWN in BUDOKAN」などを通して感じられるのは、彼の音楽はまさしくリスナーにとってアンセムだということだ。AK-69の豪腕から放たれるライヴ・パフォーマンスに対して、会場から溢れる歓声や嬌声、そして嗚咽を実際に体感すると、彼の発するラップやリリック、そして音楽が、「AK-69のモノ」であると同時に、「人々のモノ」として受容されていることが、体験として理解させられる。

その上でも、今回のアルバムに彼が「THE ANTHEM」と名付けたのは、このアルバムに収録されている音楽を、上記のように、「彼自身の音楽」であると同時に、「人々の音楽」とすることへの強い意志の現れなのではないだろうか。

では、なぜ彼の音楽は「人々の音楽」になるのだろう。それを端的に表しているのは、“MINAHADAKA feat. Lui Hua, OZworld a.k.a R’kuma, Hideyoshi”だろう。この曲でLui Huaが「隣にはAK また光ったダイヤ/偽物と違うよ/直ぐ僕もゲトろう」とリリックで描くような、AK-69には勝者として受ける羨望の眼差しも当然ある。彼自身も派手なアクセサリーや、ラグジュアリーな生活など、「勝利の称号」をリリックに落とし込むことも、過去には彼の作品の特徴ではあった。しかし、今回はそういった事象もポイントでは登場するが、強烈には押し出されていない。その意味でも、そういった羨望の眼差しを受ける以前は「裸一貫」であり、それはAK-69も、リスナーも変わらない、スタート地点は誰もが一緒だと“MINAHADAKA”はメッセージする。その視点こそが、AK-69の音楽が「人々の音楽」になる理由だろう。

今作に関して言えば、Lui Huaが羨望するような、勝利を所有として表現する部分や、外的なことを表す表現よりも、勝利の後のメンタリティであったり、“Lonely lion feat. 清水翔太”での「俺は群れた羊より 寂しくとも孤高のライオンでありたい明日は」というリリックに描かれるような「独走者としての孤独」といった、より深いAK-69心情や内面性が強く押し出される。

それは“Stronger”という実父との別れを描いた楽曲にも現れるだろう。愛別離苦、愛する人と別する苦痛や悲しみという、多くの人が感じるであろう、別れと悲しみ、そしてその時のAK-69自らの感情と感謝を丹念に描いたこの作品は、共感する……という表現では陳腐な程に、AK-69の慟哭が強く現れている。しかし、愛するものとの別れは、誰しもが感じるであろう痛みであるし、その部分においても、リスナーとAK-69は、同じ地平に立つ。

同じように“I Still Shine feat, Che’Nelle”では、心の空白であったり自己否定といった「自らの弱さ」を描き出す。これもまた、余程の脳天気な人間でない限り、誰しもが感じる感情であろう。しかしこの中で彼は、その感情の無視するのではなく、飲み込み、乗り越え、向かい合い、自分の糧とし、いかにAK-69として自らを確立したかという、「いかにAK-69となっていったか」という部分を強く表現する。故に特にこの曲は、「成功者としての憧れ」をリスナーに与えるのではなく、自らをタフに再生させるという、「いち人間としての憧れ」をリスナーに与える。その強度ゆえに、“The Anthem”で書かれたように、リスナーは「別れを告げる時が来た/逃げる事に慣れてた誤魔化し笑いの自分に」というAK-69の言葉に、背中を押されるのだ。“I’MA “G””で書かれた「誰も先不安さ /死に向け走るランナー」に続く、「今こそお前の出番さ」という結句のように。

再生という意味では、“RED MAGIC BEYOND”も非常に印象的であり、上記の分にも通じる部分が非常に大きいだろう。直訳すれば「RED MAGICを超えて」となるこの曲。「The Red Magic/まだ欲しがってる」というリリックに象徴されるように、当然ながら、リスナーは彼に「The Red Magic」を求める部分があるだろう。そして、彼自身も「赤のプライド/誤魔化すな/欲しいんだろ」とそれを見透かしている。しかし彼は「再びの幕を開ける章/赤に染めろ/街を走るこの報道」と、それまでのイメージを更に色濃く塗り替え、「その先」を描き出すことを意思表明する。

「逆らう運命(さだめ)/心の旗を振れ」とアルバムのエンディングとなる“AK-69 / Brave feat.ToshI(X JAPAN)”で歌うように、単純な要求や、正解とされるものを破壊し、自身として生きることを求める本作。それはリスナーにとっても「アンセム」として鳴り響くだろう。

 

高木”JET”晋一郎