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昨年のBillboard LIVE『サントラ渋谷系』公演直後、エグゼクティブ・プロデューサー子安次郎から、“野宮さんは明るい曲が似合うので、夏っぽいそんなステージも観てみたい”と熱望されます。そのアドバイスがきっかけで、ありがたいことに今年は、関係各位の多大なるご尽力のもと、CDのリリースを、春夏の“ヴァカンス編”、そして秋冬の“ホリディ編”とファッションショーのように、年2回も行えることが実現いたしました。

しかし、“まだ5月なのに、もう夏のアルバム?”と、思われる方もいらっしゃるでしょう?
実はこれには、個人的な1981年の思い出があります。
その年の3月21日に大滝詠一のロンバケことアルバム『A LONG VACATION』がリリースされました。
それまでに無かった華麗でポップな作風と、夏をイメージさせる作品群は、ワタクシの人生を変えるフェイバリット作品となります。そして、発売したてのウォークマンやカーステレオによって、音楽をどこへでも持ち歩けるようになり、もちろん街中からも絶えず聴こえてくるので、結果、その年は春休みから翌年の新譜『Niagara Triangle Vol.2』が出るまで(まあ、出てからもですが)、ずーっと夏気分が続きました。
(同年2月に出ていたCINEMAの1stアルバム『Motion Picture』もその気分を盛り上げてくれました。)
そんな気持ちをもう一度と、ボッサやレゲエ・アレンジのBGM的カフェ・カヴァーでは無く、しっかり歌が聴こえるポップスとして成立する、どんな時に聴いても気分は夏を感じるアルバムを作ってみたかったのです。超名作のロンバケには及びませんが(信藤三雄による本作ジャケットは大成功していますね。)、楽しんで頂けると嬉しく思います。


1. WONDERFUL SUMMER [feat. Smooth Ace]
(Gil Garfield/Perry Botkin Jr)

2016年夏から渋谷タワーレコード5Fで期間限定でスタートし、好評により次々と更新延長している伝説のレコード・ショップ《パイドパイパー・ハウス》。
隠れた名盤として知られるロビン・ワードのアルバム『Wonderful Summer』は、昨年10月末にその店長、長門芳郎が監修している名盤発見伝シリーズの1枚として26年ぶりにCD再発されました。そこで早速、『サントラ渋谷系』の客入れBGMとして使います。(つまり、子安次郎からこの夏企画が生まれた、正にその時に流れていたのです。)
タイトル曲はクリスマス直前にシングル・チャート14位を取得した大ヒット作。夏がテーマなのに真冬に大ヒットした作品となると、再発のタイミングだけでなく今回のコンセプトにピッタリなので、これは必然だと思い選曲した次第です。
曲を書いたギル・ガーフィールドとペリー・ボトキンJr.のコンビは、ザ・ピーナッツでおなじみ「情熱の花」の作者で、最初に歌唱したグループのメンバー。また、スタジオやミュージシャンは、フィル・スペクターと同じプロダクツでした。そこで、当時と同じヴィンテージ楽器を使用して、完全コピーにトライしています。


2. 大好きなシャツ(1990旅行大作戦) [Duet with 渡辺満里奈]
(作詞/作曲:DOUBLE KNOCKOUT CORPORATION)

《渋谷系》を代表するフリッパーズ・ギターの夏曲といえば、「Summer Beauty 1990」。でも、既に2015年のアルバム『世界は愛を求めてる』で取り上げていました。
そこで思い付いたのが、小沢健二・小山田圭吾の二人が1990年の夏、渡辺満里奈のために書き下ろした、このご機嫌なシングル・ヒット曲です。すると、彼女がデビュー30周年を迎えると聞こえてきました。それではとダメもとでデュエット参加をお願いしてみると、なんとまさかの“歌っても良いよ”とのお返事が!
彼女がレコーディングをするのは、1997年のシングル「太陽とハナウタ」以来、20年ぶりとのこと。しかし、そんなことを一切感じさせず、スタジオでは楽しそうに歌って、全く変わらない歌声を聴かせてくれました。
ところで、このふたりの組み合わせを意外だと感じられる方も多いかも知れません。しかし、1991年に渡辺満里奈はPizzicato Fiveのアルバム『女性上位時代』の「お早よう」にコーラスで参加しているのです。そして、アルバム・コンセプトから派生したガール・グループ《女性上位時代ズ》(野宮真貴、中川比佐子、渡辺満里奈、森丘祥子、寺本リエ子)の一員として、六本木WAVEでのイベントにも一緒に出演しました。

更には、遡って1987年12月、渡辺満里奈のクリスマス・ミニ・アルバム『Christmas Tales』の「水面のフォレスト」(作詞:川村真澄/作曲:鈴木さえ子)に野宮真貴もコーラス参加。つまり、ふたりは30年来の関係なのです!

小沢健二作・プロデュース曲「バースデイ・ボーイ」が、25年の時を経て初アナログ・シングル盤としてリリースされ、時に市場から姿を消すほどの人気となりました。
渡辺満里奈の歌声は、30周年を迎えてこれからも楽しみです。


3. V・A・C・A・T・I・O・N
(作詞/作曲:小西康陽)

野宮真貴が歌っていない小西康陽作品シリーズ。今回は1997年夏にPuffyの吉村由美がソロ名義でリリースした、ソニー・ハンディカムのCMソングです。
やはり夏の曲といえば、エレキ・ギターとザ・ビーチ・ボーイズ風コーラスが必要不可欠ですが、小西康陽は、そこにトレイドウィンズの「New York’s A Lonely Town」と通好みのサウンドを持ってくるなどお見事でした。


4. 夏の恋人 [feat. Smooth Ace]
(作詞/作曲:山下達郎)

《渋谷系》に多大な影響を与えたシュガー・ベイブ&山下達郎。この曲は彼が、1978年の竹内まりやデビュー・アルバム『BIGINNING』で、彼女のために初めて書き下ろした記念すべき作品です。数ある他人への提供曲で彼が作詞まで手がけたものは、同じく1980年竹内まりやへの「Morning Glory」、1982年フランク永井への「Woman」、1988年鈴木雅之への「おやすみロージー(Angel Babyへのオマージュ)」とたった4曲しかありません。つまり、それは特別なことなのでしょう。
オリジナルにはない、Smooth Aceによるコーラス・ワークのおかげで、まるでハイ・ファイ・セットのようなヴォーカル・グループに聴こえますね。


5. サマー・ガール [feat. Smooth Ace]
(作詞:ささきひろと/作曲:かまやつひろし)

2015年のBillboard LIVEで、客席からいきなり飛び入り参加してくれた、ムッシュことかまやつひろし。
その時、一緒に歌ってくれた「中央フリーウェイ」のコーラスは、我々にとって一生の思い出となりました。
今回、夏向きの選曲ということでいろいろと悩みましたが、この曲を思い付いたとたん、そこから一気に方向性が見えてきたのです。
オリジナルは1966年7月のザ・スパイダースですが、「中央フリーウェイ」同様、荒井由実の『セブン・スター・ショウ』(1976年TBS)で、ティン・パン・アレーのコーラスをバックに歌われていて、またまたそのアレンジを参考にしました。(まるでコメディのようなティン・パンのコーラスは、それを観てファンクラブが解散してしまうという事態も招いたそうです。)

この曲にはコーラスが不可欠なので、お願いしたのはSmooth Ace。彼らとの再会も、NHK『The Covers』でユーミンの「ルージュの伝言」を『セブン・スター・ショウ』ヴァージョンでカヴァーしたことから。そして、その出会いをきっかけに、彼らの2014年の自主制作アルバム『SING LIKE CHILDREN』(あの山下達郎もラジオ番組で取り上げました。)は、新曲が追加され、5月10日に我らがユニバーサル ミュージックよりメジャーリリースされることになりました。

野宮真貴がカヴァーした、ユーミンからかまやつひろしに贈られた「中央フリーウェイ」と今回の「サマー・ガール 」。ご一緒にレコーディングは叶いませんでしたが、彼のオシャレでスマートな音楽と人生は、決して色あせることはありません。
サンキュー、ムッシュ! ソーロング、ひろし‼︎


6. 真夏の昼の夢
(作詞/作曲:大瀧詠一)

後のロンバケを予感させる、大滝詠一1977年暮れのアルバム『ナイアガラ・カレンダー』に収録されていた逸曲。
今回のアレンジは、シティボーイズ・ライブ1999年公演「夏への無意識」のサントラとしてカヴァーした小西康陽のものを参考にしました。彼が率いたTokyo Coolest Comboを彷彿とさせますね。


7. 七夕の夜、君に逢いたい [feat. Smooth Ace]
(作詞:松本 隆/作曲:細野晴臣)

Pizzicato Fiveの斬新なステージ・ヴィジュアルを担当していたGROOVISIONS。彼らが開発したキャラクターchappieは、何人かの覆面歌手によって音楽アルバムまで作られました。コンポーザーも川本真琴やスピッツの草野正宗など、当時の旬なアーティストが参加し、この曲は大御所の元はっぴいえんどチーム、松本隆と細野晴臣が手がけています。

歌っているのは、声を聴けば誰でも分かってしまう国民的シンガーですが、未だその正体は明かされていません。(でも、彼女は“オバさんになっても”全くそんなことを感じさせず、昨年YouTubeで話題になったビームス40周年の「今夜はブギー・バック」動画に参加。野宮真貴とも共演しました。声の質感も似ていますね。)

細野晴臣は、Pizzicato Fiveデビュー時のプロデューサーで、小山田圭吾も昨今はYMOに参加していて、正に《渋谷系》のゴッド・ファーザー。1975年のアルバム『トロピカル・ダンディー』収録の「ハリケーン・ドロシー」とどちらを選ぶか迷いましたが、そのアレンジでこの曲をやれば面白いのではとトライしてみました。共同プロデューサーspam春日井のこだわりでローランドのリズム・ボックスもソリーナも当時と全く同じ音で再現しています。おかげで、1999年の作品を1975年のティン・パン・アレーが演奏しているかのように聴こえるのではないでしょうか。


それでは、一足先の夏をお楽しみください。
そして、また『ホリディ渋谷系』でお会いしましょう。

プロデューサー:坂口修(O.S.T.INC / NIAGARA)

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